《ヴィーナスのよそおい》

《ヴィーナスの粧い》
宮本三郎 1971年 カンヴァス、油彩(ゆさい) 116.0×73.0cm

絵について

この作品は、ヨーロッパの神話をテーマにしています。この絵にえがかれた世界は、どんなところなのでしょうか。

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画面の中央に、長いかみをもつ、はだか女性じょせいえがかれています。彼女かのじょだれなのでしょう?また、なぜはだかで立っているのでしょうか?
作品のタイトルをみると、《ヴィーナスのよそおい》とあります。これは、この絵をいた宮本三郎さぶろうがつけた題です。それでは、「ヴィーナス」とはなんのことでしょう?

「ヴィーナス」は英語えいごで書くと「Venus」、ギリシア・ローマ神話に登場する恋愛れんあいと美の女神のことです。ギリシャ神話では、「アフロディテ(aphorodite)」といい、ローマ神話では、「ウェヌス」(Venusをイタリア語で読むと「ウェヌス」)といいます。ヴィーナスは、海のあわから生まれ、貝のうえに乗って、西風に運ばれて島の岸辺きしべへとたどり着きます。神々やキューピッド(クピド)らに祝福しゅくふくされるその誕生たんじょうシーンを、西洋の美術びじゅつの流れのなかで、多くの画家たちがえがいてきました。

宮本がえがいたこの作品も、よく見ると白い貝のうえに乗っていることや、水面から顔を出す天使たちのような存在そんざいまれていることから、ヴィーナスの誕生たんじょう場面をえがいたのであろうことがわかります。背景はいけいは青く、海をあらわしているのでしょう。また、赤んぼうではなく、大人の女性じょせいのすがたで生まれたヴィーナスですが、誕生たんじょう瞬間しゅんかんにはやはり衣服いふくを身に着けていません。そこで、彼女かのじょは海水にれた長いかみをはらい、これから身支度みじたくをするところなのです。かがみを差し出す天使とおぼしき存在そんざいが、それを手伝てつだっています。

宮本三郎さぶろうは日本に生まれ育った日本人画家ですが、油絵具をもちいて西洋の手法しゅほうで絵をえがいていました。さまざまな画題に取り組みましたが、とくに1970年代に入り、60代も半ばをえたころから、こうした神話をテーマにした作品をえがき始めました。人物を主題にくことが多かった宮本ですが、神話という様々な(しばし愛憎あいぞうにあふれる)エピソードにちた物語てき要素ようそをとりいれることにより、新しい表現ひょうげんを手に入れます。
この絵をえがいたわずか3年後に、宮本三郎さぶろうはその生涯しょうがいを閉じました。

文: 世田谷美術館学芸員 加藤 絢

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《ヴィーナスのよそおい》

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展示室てんじしつで見ることができる作品は、展覧会てんらんかいごとにかわります。