絵について
この作品は、ヨーロッパの神話をテーマにしています。この絵に描かれた世界は、どんなところなのでしょうか。
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- 画面の中央に、長い髪をもつ、裸の女性が描かれています。彼女は誰なのでしょう?また、なぜ裸で立っているのでしょうか?
作品のタイトルをみると、《ヴィーナスの粧い》とあります。これは、この絵を描いた宮本三郎がつけた題です。それでは、「ヴィーナス」とはなんのことでしょう?
「ヴィーナス」は英語で書くと「Venus」、ギリシア・ローマ神話に登場する恋愛と美の女神のことです。ギリシャ神話では、「アフロディテ(aphorodite)」といい、ローマ神話では、「ウェヌス」(Venusをイタリア語で読むと「ウェヌス」)といいます。ヴィーナスは、海の泡から生まれ、貝のうえに乗って、西風に運ばれて島の岸辺へとたどり着きます。神々やキューピッド(クピド)らに祝福されるその誕生シーンを、西洋の美術の流れのなかで、多くの画家たちが描いてきました。
宮本が描いたこの作品も、よく見ると白い貝のうえに乗っていることや、水面から顔を出す天使たちのような存在が描き込まれていることから、ヴィーナスの誕生場面を描いたのであろうことがわかります。背景は青く、海をあらわしているのでしょう。また、赤ん坊ではなく、大人の女性のすがたで生まれたヴィーナスですが、誕生の瞬間にはやはり衣服を身に着けていません。そこで、彼女は海水に濡れた長い髪をはらい、これから身支度をするところなのです。鏡を差し出す天使とおぼしき存在が、それを手伝っています。
宮本三郎は日本に生まれ育った日本人画家ですが、油絵具をもちいて西洋の手法で絵を描いていました。さまざまな画題に取り組みましたが、特に1970年代に入り、60代も半ばを越えた頃から、こうした神話をテーマにした作品を描き始めました。人物を主題に描くことが多かった宮本ですが、神話という様々な(しばし愛憎にあふれる)エピソードに満ちた物語的要素をとりいれることにより、新しい表現を手に入れます。
この絵を描いたわずか3年後に、宮本三郎はその生涯を閉じました。
文: 世田谷美術館学芸員 加藤 絢
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《ヴィーナスの粧い》
ヴィーナスがいる世界を
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