奥沢〜玉川田園調布〜自由が丘の地域にゆかりのある人物を講師にお招きし、毎回多彩なテーマでお届けする講演会「人ひろば」。宮本三郎記念美術館と、美術館の周辺地域にお住まいの「地域の会」の方々が毎回コーディネーターとなり、多彩なテーマで行っています。
昭和15〜38年まで九品仏に住んでいた作家・石川達三は宮本三郎と同じ1905年生まれ。『蒼氓』で第一回芥川賞を受賞、新聞の連載小説等ベストセラー作家として活躍しますが、1938年『生きてゐる兵隊』が発表される際に内務省より検閲を受け、掲載誌の発売禁止の処分、自身も有罪判決を受けました。
講師は、朝日新聞前編集委員・現甲府総局長の河原理子さん。著書『戦争と検閲・石川達三を読み直す』(岩波新書2015年7月刊)では、石川達三が官権に言論の検閲を受けた時期を克明に、具体的に書かれています。当時の様子を、具体的な史実に基づいてお話下さいました。
続きまして石川達三の長男であり、上智大学名誉教授の石川旺さんに、石川達三作品の魅力についてお話頂きました。「社会派作家の反面、作品を読んでいくうちに細やかな感性、人間味や情感があらわれているのが感じられます。」
発禁処分を受けた『生きてゐる兵隊』が1945年に単行本で出版され、「時の政府が何を言おうとも、自分の作品の方が寿命が長い。文学作品の方が残るんだ。」ということを実感したという石川達三。いつ戦争がふりかかっても不思議でない時代となった今、検閲に関してその抵抗と批判の精神に触れることのできた講演会となりました。



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