開催中の展覧会「画家と写真家のみた戦争―宮本三郎、久永強、向井潤吉、師岡宏次」に関連した講演会を開催しました。
講師に美術批評家の椹木野衣さんをお迎えし、戦争体験があらわれた四者四様の表現についてお話し頂きました。「戦後71年目、回顧というよりは戦争画のこれからの姿について考えていく第一歩にできれば。」
極寒の地の地面に、時期的に咲くはずのない花が描かれている藤田嗣治の《アッツ島玉砕》(東京国立近代美術館蔵、アメリカ合衆国無期限貸与、本展には未出品)。このような玉砕空想画ほか、作戦記録画など「戦争画とひと口に言っても、その時期や置かれた状況で、超現実的な絵であったり、空想的であったり、写実的であったりと様々なかたちを取る。」と椹木さん。
戦後、宮本三郎は《死の家族》、向井潤吉は《漂人》と、戦争の影を感じさせる作品を描きます。その後、宮本は華やかな裸婦、向井は穏やかな民家という主題に取り組むようになりました。師岡宏次の武蔵野を撮った写真にも戦争の影響はあらわれます。解説を聞いた後では、それらの作品がこれまでとは大きく異なって見えてきます。
久永強のシベリア抑留体験を描いたシリーズは、久永が74歳を迎えた1992年になってから2年に亘り描かれました。ファンタジーともリアリティともつかないような絵、深い闇の色、搾り出された言葉は強烈です。
「戦争は終わったものではなく、延々と続いて今日まで至っている。戦争画は過去のものではなく、絶えず繰り返し回帰する、と強く思わせられる作品。」
講演の最後は、「戦後70年で決して一区切りになったというわけではない。総括の時というよりは、いよいよ戦争について考えていかなければいけない。」と静かに語りかけました。
講演会後は、多くの方が展覧会をじっくりとご覧になり、アンケートや、twitterでもたくさんのご感想を頂きました。戦中・戦後に画家たちが何を感じ生きたのか、戦争が日常と地続きであることを、深く実感させられた講演会となりました。